ソフトバンクグループのやさしい企業分析!⑧



本記事は、第9回に渡って掲載される「ソフトバンクグループの易しい企業分析!」シリーズの第8回です。

第8回では、これまでの内容のまとめに入ります。

第2回で概観した2020年3月期の決算を、前回ソフトバンクグループ分析においてもっとも重要だとご説明した株主価値に着眼点を移してもう一度はじめから見ていき、

後半で細かな部分を見ていき、2020年3月期を大赤字へと陥れた真犯人を見つけます。

今回は、第2回とはまったく違う発見がみなさんを待っています。

 

この記事を読むことで、

  • 2020年度3月期決算は、株主価値に着眼点を移すとどのように見えるか
  • 2020年3月期決算を大赤字へと陥れた真犯人の正体

を知ることができます。

 

今回はこれまでの内容をどれだけ理解できているかによって理解度に大きな差が生まれます。

「忘れてしまっているかも」と思われた方は、先を急がずにもう一度おさらいをしてからお読みいただくことをオススメいたします。

今回は分量がとても多く、また後半の内容はどうしてもむずかしくなってしまうので、ここにきて拒否反応が出てしまう方もいるかもしれません。

しかし、なるべくわかりやすくなるようにとにかくかみ砕いて解説をしていますので、ご安心ください。

今回がこのシリーズの大トリの内容となっているので、一度で理解できない可能性もあります。そんな時は、何度か読み返してみてください。

今回の内容を理解できたときには、みなさんはこのシリーズを読み始める前とは比べ物にならないほどレベルアップをしていることでしょう。

難しい内容もありますが、今回も肩の力を抜いて、とにかく楽しむことに重点を置いて読み進めていってもらえればうれしいです。

この記事では、会社名などを下記のように表現します。

  • ソフトバンクグループ株式会社:SBG(ソフトバンクグループ)
  • ソフトバンク株式会社:SBKK(ソフトバンクかぶしきかいしゃ)
  • ソフトバンク・ビジョン・ファンド:SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)

2020年度3月期決算のおさらい

ここでもう一度2020年度3月期決算を概観しましょう。

IRの図を使い、

  • 「営業損益」「当期純損益」
  • 「売上高」

の順で解説をしていきます。

「営業損益」「当期純損益」ともに大幅な赤字

下の図をご覧ください。

連結業績は、2018年度に対して売上高が916億円も増加しているのにもかかわらず、

営業損益は前年度からマイナス3兆4,382億円である1兆3,646億円の営業赤字、

当期純損益は前年度からマイナス2兆3,728億円である9,616億円の最終赤字となっています。

ソフトバンクグループ IR

第2回でこの資料を見たときのみなさんの感じたことを思い出してみてください。おそらく「え、まじでやばいじゃん」というようなことを感じたのではないかと思います。

しかし、今はどうでしょうか?

この数字の中身がどうなっているのか気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

もしそう思われた方がいらっしゃるのでしたら、筆者としては第2回から第7回までのご説明が実ったということで非常に嬉しく思います。

ソフトバンクグループのやさしい企業分析!② ~決算を分析!大幅赤字の犯人は誰だ!?~

 

問題なしの「売上高」、問題ありの「営業利益」と「当期純利益」

売上高は、連結子会社であるSBKKの4兆8,625億円が大半を占め、それに加えてその他の1兆3,226億円が計上されています。

ソフトバンク IR  売上

第2回でも見たように、ここまでは素晴らしかったですよね。

では、この先を見ていきましょう。

問題は営業利益と当期純利益です。

営業利益に関して、SBKKは9,233億円と前年度から650億円ほど増益しています。

しかし、SVF事業が前年度は1兆2,566億円の営業利益だったのに対して2019年度は1兆9,313億円の営業赤字となってしまっています。

ソフトバンク IR ソフトバンク IR

その結果、2018年度は1兆4,112億円の当期純利益が出ていたにもかかわらず、2019年度は9,616億円の当期純損失を計上することとなっています。

第2回では、この大赤字の犯人をSVFだと結論づけました。

しかし、第3回で評価損益と実現損益の違いとこれまでのSVFの投資成果をご説明し、第7回で国際会計のルールをご説明したので、ここでも感じることが違うのではないかと思います。



株主価値に着目してみる

この章では、前回しつこくご説明した株主価値に着目してみましょう。

2019年と2020年で株主価値の比較をし、増減率をみていきます。

そして、分析の最後には、日経平均株価と比較をし、SBGの運用成績が良いか悪いかの分析をしていきます。

2019年12月末と2020年5月の比較

ソフトバンク IR

2019年12月末時点では保有株式価値が29.0兆円、純有利子負債が6.0兆円、差し引いて株主価値が23.0兆円でした。

では、2020年度3月期の決算説明会が行われた2020年5月18日時点での株主価値はどうかというと、

ソフトバンク IR

保有株式価値は29.0兆円から28.5兆円へと0.5兆円減少しています。


純有利子負債が6.0兆円から6.8兆円へと増加し、差し引きして株主価値は23.0兆円から21.6兆円へと1.4兆円減少することとなりました。

株主価値を増減率で見てみると、マイナス6.1%です。

SBGの保有株式価値のほとんどを占めるのは外国企業の株式ですが、ここでは日経平均株価の下落率と比較してみましょう。

日経平均株価との比較

下図が2019年12月30日時点での日経平均株価です。

23,656.62円となっていますね。

日経平均 チャート

 

対して、下図が2020年5月18日時点での日経平均株価です。

20,133.73円へと大幅に下落しています。

日経平均 チャート

コロナショックにより世界中の株価指数は2月中旬から一気に下落したことで、投資会社であるSBGも当然その影響をもろに受けています。

2019年12月30日と2020年5月18日時点の日経平均株価を比較してみると、

23,656.62円から20,133.73円へと下落しており、その下落率はマイナス14.9%です。

日経平均株価の下落率とSBGの株主価値の増減率を比較すると、日経平均株価の下落率14.9%よりも、SBGの株主価値の増減率マイナス6.1%の方がはるかに良いです。

さらに、純有利子負債を考慮しない純粋な保有株式価値は29.0兆円から28.5兆円へと0.5兆円も減少していますが、

増減率で見るとたったのマイナス1.8%ですので、なおさら好成績と言えます。

これには4月1日に成立した「Sprint」と「Tモバイル」の合併によってSBGが保有していた「Sprint」の株式2.0兆円分が「Tモバイル」の株式3.2兆円分に変わっているため、その差額分である1.2兆円が大きく寄与しています。

しかし、仮に2.0兆円のまま考えたとしても株主価値は29.0兆円から27.3兆円へと下落したことになるだけで増減率は5.9%に留まりますので、投資会社であるSBGにとっては素晴らしい経営成績です。

why
要するに、ソフトバンク・グループはけっこういい成績で運用していたってことなんだね!

隠れていた懸念点

ここまでのご説明で、この株主価値のページの最大の懸念点に気づいた方はすばらしいです。

これまでの記事の内容を完璧に理解されていると言っても過言ではありません。

why
お気づきでない方のためにひとつヒントをだすよ!

それは、「それって本当なの?」ということです。

 

もうお分かりでしょうか?

 

答えは、「armの株式価値」と「SVFの株式価値」です。

主に第5回で「WeWork」に絡めてご説明しましたが、SVFの保有している株式には非上場企業のものが多く含まれます。

ソフトバンクグループのやさしい企業分析!⑤ ~WeWork上場延期の理由とは?~

SBGが直接保有していて株主価値のページに記載されている「Alibaba」や「SBKK」、「Tモバイル」などは上場しているため、マーケットの株価とSBGが保有している株式数を掛ければ保有株式価値は正確に出すことができます。

そして、その信ぴょう性もマーケットで株価が決まっているということによって担保されています。

しかし、SBGが直接保有している「arm」は現在非上場企業です。

「arm」は外国企業ではありますが、先ほど見た日経平均株価の下落率マイナス14.9%に対して「arm」は2.7兆円から2.6兆円へたった0.1兆円下落しただけとなっており、

下落率にするとたったのマイナス3.8%で計算されています。

また、SVFが投資を実施した88社のうち80社は2020年5月18日時点では非上場企業です。

そのため、「WeWork」のときと同様に非上場企業の企業価値の算出方法と、それによって算出された企業価値自体の信ぴょう性に不安が残ります。

つまり、株主価値のページをサラッと見ただけだと「そこまでひどくないじゃん!」と思えますが、少し深く考えると決してそんなに単純な話ではないのです。

ただし、私たちは「WeWork問題」の根深さをしっかりと学んでいるので、このページの背後に潜む「そもそもSBGが算出している非上場企業の企業価値が本当に適正なのか」という根本的な問題を疑うことができます。

これはSBGを分析する際に必ず強みとして働きます。

たしかにSBGが発表した株主価値が適正なものであればとても好成績ですが、このシリーズをお読みくださっているみなさんはそういった問題が常に背後に潜んでいるということに留意しましょう。



決算短信から過去最大の大赤字の真犯人を探る

この章では、決算短信を実際にみてキャッシュフローの観点からSBGを分析していきます。

SBGの2020年3月期決算を過去最大の大赤字へと叩き落とした真犯人は何なのかが、明らかになります。

少々重めの内容ですが、疲れたら休憩をしながら読んでみていただければと思います。

読み終わるころには、あなたの知識レベルは格段にあがっていることでしょう。

決算短信「キャッシュフローについて」

こちらの2枚は、「決算短信」という種類の決算資料の中の「キャッシュ・フロー」というものが記載されている資料です。

キャッシュ・フローとは
現金の流れを意味し、主に企業活動や財務活動によって実際に得られた収入から、外部への支出を差し引いて手元に残る資金の流れのことです。

why
簡単に言うと、現金の出入りを示すものだよ。

ソフトバンク IR ソフトバンク IR

営業活動によるキャッシュフローは1兆1,179億円のプラスです。

営業活動によるキャッシュフローとは
営業活動、すなわち本業に関わる活動におけるキャッシュの流れを表します。一般的に、営業活動によるキャッシュフローが大きくプラスになっていれば、その企業は本業がしっかりしていると考えて差し支えありません。

投資活動によるキャッシュフローは4兆2,849億円のマイナスですが、「主な科目別の内容」を見てみるとそのほとんどが有形固定資産及び無形固定資産の取得、企業の株式やファンドへの投資への取得など、資産を取得するためにした支出です。

投資活動によるキャッシュフローとは
企業が将来の利益獲得および資金運用のために設備投資や他企業に対する投資により、どれほどキャッシュを支出したか、固定資産や有価証券の売却等によってどれほどキャッシュを回収したかを表します。

つまり、現金はたしかに支出しているものの、それは私たちで言うところの食べ物や飲み物、お菓子を買うといったいわゆる消費(資産を減らす行為)をしたのではなく、家や車などの資産を購入しただけなのです。

もしここからその購入した資産の価値が減少していけば実質的には消費をしたような形になりますが、現金が出ていくということが必ずしも資産を減らすことになるわけではないということがお分かりいただけたかと思います。

営業活動によるキャッシュフローは1兆円を超えるプラスです。

たしかに投資活動によるキャッシュフローは4兆円を超えるマイナスとはなっていますが、これは営業損益や当期純損益にただちに影響を与えるものではありません。

では、SBGの2020年3月期決算を過去最大の大赤字へと叩き落とした真犯人は何なのでしょうか?!

真犯人はこいつだ!!

SBGの2020年3月期決算を過去最大の大赤字へと叩き落とした真犯人は何なのでしょうか?!

その答えは、以下の2枚にあります。

こちらはSBGが2020年度3月期に公開した「決算データシート」から抜粋しています。

まずはこちらをご覧ください。

「FY2019」の「Q1〜Q4」が2019年度の成績です。

決定的な打撃を受けたのは「Q4」なので、ここでは主に「Q4」に触れます。

「継続事業」の中にある「Q4」の「売上高」は1兆5,873億円と「Q1〜Q3」に劣らない好成績ですが、問題はその3つ下にある項目「ソフトバンク・ビジョン・ファンド等SBIAの運営するファンドからの営業利益」です。

「Q4」だけで1兆1,335億円という莫大な営業赤字を叩き出しており、結果的に1兆4,617億円の純損失を計上しました。

 

また、同じく「ソフトバンク・ビジョン・ファンド等SBIAの運営するファンドからの営業利益」で「Q2」で出した9,702億円という莫大な営業赤字と合わさって、

「Q1」では1兆1,881億円という莫大な純利益を出していたにもかかわらず、

「継続事業からの純利益」に関しては年度で7,622億円という莫大な純損失を計上することで幕を閉じました。

 

ここで、真犯人が「ソフトバンク・ビジョン・ファンド等SBIAの運営するファンド」に決まりました。

「ソフトバンク・ビジョン・ファンド等SBIAの運営するファンド」というのは、SBGはSVFの他にもいくつかのファンドを運営しており、これはそれらをまとめて表している項目のためこのような書き方になっています。

ファンドということは、その損益が「実現損益」なのか「評価損益」なのか、つまり「真の真犯人」を明らかにしなくてはなりません。

では、一体どちらが真の真犯人なのでしょうか?

真の真犯人はこいつだ!!

以下の画像の、先ほどと同じく「FY2019」の「Q4」に注目してください。

「ソフトバンク・ビジョン・ファンド等のSBIAの運用するファンドからの投資損益」という項目の中にある

 

  • 「投資の売却よる実現損益」
  • 「投資の未実現評価損益」

という2つの項目があるのがお分かりいただけましたか?

 

これが第3回でご紹介した「実現損益」と「評価損益」です。

前回ご説明したとおり、SBGはSVFの評価損益を四半期毎にSBGの損益に計上しなくてはなりません。これは逃れることができない国際会計のルールでした。

 

では、数字を見てみましょう。

「Q4」の「投資の売却よる実現損益」は437億円のプラスです。

しかし、「投資の未実現評価損益」は1兆1,629億円となっています。


見つけました!!!

真の真犯人は、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド等のSBIAの運用するファンドからの投資損益」の「投資の未実現評価損益」です!!!

つまり、「Q4」で叩き出していた1兆1,335億円という莫大な営業赤字のうち1兆1,629億円が「ソフトバンク・ビジョン・ファンド等のSBIAの運用するファンドからの投資損益」の「投資の未実現評価損益」だったということです!!!



まとめ

みなさん、お疲れ様でした。

非常に長くむずかしい内容の第8回はいかがでしたでしょうか?
楽しんでお読みいただけましたでしょうか?

また、1回で理解することはできましたでしょうか?

もし1回で理解できなくても悲観的になったり諦めたりする必要はありません。

SBGはご説明したとおり一般的な事業会社とは違う特殊な企業で、決算の内容も非常に複雑な企業です。

悲観的にならず、諦めず、何度も読み返してなんとか理解してみてください。

このシリーズをお読みになる前のみなさんの中には、「赤字」と聞くと何かを売って売上げができたはいいものの、それ以上の人件費や家賃などの経費がかかってしまって結果的に支出の方が多くなり、現金が出ていってしまうことをイメージされていた方も多かったのではないかと思います。

しかし、一言で「赤字」と言ってもそんな単純なものではないということがお分かりいただけたのではないでしょうか?

もしかしたら、これまでのご説明で「評価損は実現損ではないから大丈夫だ」という印象を与えてしまったかもしれません。

注意していただきたいのは、「評価損は実現損ではないから大丈夫」ということは決してなく、「評価損」も資産が減っていることにほかなりません。

 

これはまぎれもない事実です。

 

しかし、筆者がみなさんにお伝えしたかったことは、「赤字」というものがみなさんがイメージしがちな「赤字」の形だけではないということと、

みなさんが投資をするにあたって、中身を理解しないままいたって表面的なただの大きな数字を実態以上に大ごとと捉えられるように報道するメディアの言葉を鵜呑みにしてはいけないということです。


第2回でSBGの衝撃の経営状況をご紹介して「兆円単位の赤字を出してるなんて、ソフトバンクグループやばいじゃん!」と思われた方の中には、前回と今回の内容をご理解いただいたあとに「なんだ、第2回で思ったほどではないじゃん」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。

この評価は人それぞれなので、現段階では正しいや間違っているということは断言できることではありません。

また、投資判断にも直結してくるような内容ですので筆者の評価を記載することは控えますが、これまでSBGに対して何の考えも持たれていなかった方でも、現在は少なくとも何かしら思うところはあるのではないでしょうか?


もしそうであれば、このシリーズを始めた筆者としてはうれしい限りです。

さて、第9回の内容に関してですが、SBGの企業分析は今回で完結とし、第9回では2020年の3月中旬にSBGが急遽不可解なタイミングで発表した「自社株買い」の裏側に迫りたいと思います。

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