

本記事は、第9回に渡って掲載される「ソフトバンクグループの易しい企業分析!」シリーズの第6回です。
この記事を読むことで、
を知ることができます。
第6回では、第5回で突如転落したWeWorkに対するソフトバンクグループの救済策、またまた登場するソフトバンクグループのかしこさ、そしてWeWork問題浮上後の世間からのソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドに対する評価の変化についてやさしく解説していきます。
第1回でも「ソフトバンクグループのかしこさ」をご紹介しましたが、今回はまた別の「ソフトバンクグループのかしこさ」をご紹介します。
少しむずかしい内容ですが、極力わかりやすく解説していきます。
今回も肩の力を抜いて、楽しむことに重点を置いて読み進めていってください。
この記事では、会社名などを下記のように表現します。
ソフトバンクグループの威信をかけたWeWork救済策

SBGとSVFの合わせて1.1兆円も出資をしたにもかかわらず、企業価値を約9,000億円と評価する人も現れてきてしまったWeWork。
退くに退けないSBGは、威信をかけて救済に乗り出すことになります。
なんと本体のソフトバンクグループから実力者を送り込みます。
送り込むのは本体のCOO
悲惨な状況になっているWeWorkをなんとか立て直そうと、SBGは現SBGの取締役副社長COOの「マルセロ・クラウレ」氏を、WeWorkへ会長職として送り込みます。
本体のSBGの取締役副社長COOを立て直し企業に送り込むというのは、そこまで例のないものすごい決断です。
孫正義氏がいかにWeWorkの立て直しに威信をかけているかということを、ここから推察できます。
Sprint再建の立役者 = マルセロ・クラウレ
ここで、マルセロ・クラウレ氏の武勇伝について解説します。
「Sprint」という企業をご存知でしょうか?
この会社を奇跡的に復活させたのが、マルセロ・クラウレ氏です。
SBGはこの「Sprint」を2013年に1兆8,000億円を投じて買収しましたが、諸々の事情が重なり2014年に経営は最悪の状態に陥りました。
そこで孫正義氏は、アメリカの携帯電話卸会社「ブライトスター」を創業し大成功させた「マルセロ・クラウレ」氏を最高経営責任者(CEO)として送り込みます。
すると2015年度にSprintは9年ぶりの営業黒字に転換し、2016年はさらに営業利益を伸ばすなど、奇跡の復活を遂げました。


ソフトバンクグループのかしこさ
この章では、SBGのトリッキーな対応とそれに対する筆者の見解を記述します。
SBGはWeWorkの救済に乗り出すにあたり、WeWorkの株式の保有比率を80%程度に高めます。
自社の取締役副社長COOを送り込んでまで立て直すのですから、その立て直しによって生じる利益をなるべく総取りしようというのが狙いでしょう。
SBGはWeWorkの株式の保有比率を80%程度に高めたため、WeWorkを好きなようにコントロールできるようになりました。
ですが、SBGは(コントロールを完全にする)経営権の変更はしませんでした。
経営権の変更はしなかった
議決権の過半数を取得することはその会社の経営権を握るということであり、実質的にその会社を意のままに動かすことができるようになります。 これを「経営権の変更」といいます。 議決権を50%以上保有している企業は連結子会社という位置付けになります。 SBGはWeWorkの株式の80%を取得するということで過半数を超えていますから、「SBGはWeWorkの経営権を握るんだ」と思われた方がほとんどではないでしょうか? 「SBGはWeWorkの経営権を握って意のままに動かした方が立て直しやすいのではないか」という考え方もありますよね。 しかし、SBGは「経営権の変更」は起こしません。 「どういうこと?!80%も株式を取得するのにそんなことできるの?!しかも、経営権を握った方が立て直しやすそうなのになんで?!」 こう思われている方がほとんどなのではないでしょうか? そうなんです。まさにここがSBGのトリッキーなところなんです。 *これは筆者の推測です。 WeWorkをSBGの連結子会社にしてしまうと、現在かなりの赤字体質であるWeWorkの営業赤字などがSBGの連結決算に乗っかることになります。 SBGがWeWorkを連結子会社にしなければWeWork自体は非上場企業なので情報開示をする必要はありませんが、連結子会社にしてしまうとSBGの決算時に合算した成績を公開せざるを得なくなります。 2018年に約1,800億円の赤字を計上しているWeWorkがSBGに合算されるのはSBGにとってかなりの重荷になりますし、それによってSBGの株価が下落する可能性があります。 孫正義氏とSBGはとある理由(便宜的に、説明は省きます)により株価が下落することを特に避けたいと考えているので、SBGは意図的にWeWorkを連結子会社にしないことにしたという予測が立ちます。 *これは筆者の推測です。 企業の敵対的買収に対する防衛策として、「チェンジ・オブ・コントロール条項(便宜、COC条項)」というものがあります。 わかりやすく言うと、社債保有者は「経営するのがこれまでと別の人(企業)になるなら、貸しているお金をすぐに返して」と会社に対して言えるようになるということです。 アメリカでは社債市場の拡大に伴って社債権者を厚く保護する傾向があり、WeWorkの社債の契約の中にCOC条項が組み込まれていても不思議ではありません。 もし過半数の議決権の移動が要件となっているCOC条項がWeWorkの社債の中に組み込まれていたら、WeWorkの経営状態が悲惨だということを知っているWeWorkの社債保有者は今のうちに資金を回収したいと考えるでしょうから、社債の償還を求めるでしょう。 しかし、社債を償還するというのは会社から現金が出ていくことに他なりません。 ただでさえ現金が枯渇しており固定費が高いためなるべく多くの現金を確保しておきたいWeWorkがこのタイミングで社債を償還してしまったら、瀕死の状態になることは必至です。経営権の変更を起こさない理由①
経営権の変更を起こさない理由②
いいとこ取りをするソフトバンクグループ
結論、ソフトバンクグループはWeWorkの株式について経済的側面は極力高めたいですが、支配的側面はおそらく前述の2つの事情により過半数は超えたくないと考えていると思われます。
株式には経済的側面と支配的側面があります。
普通株式というものであれば、1株につき議決権が1つ付与されています。
しかし、実は種類株式という議決権が付与されていない株式を発行することが可能で、株式の経済的側面と支配的側面を分離させることができます。
少なくとも、発行済株式総数の80%以上を取得するのに過半数の議決権を持たないというところには何かしらの意図を感じますよね。
つまり、その意図が何であれソフトバンクグループはWeWorkの株式について経済的側面は極力高めたいですが、支配的側面はおそらく前述の2つの事情により過半数は超えたくないと考えている可能性が非常に高いです。
そこで、SBGとSVF種類株式を活用することで思うがままの状態を作出することに成功しました。
これぞまさに徹底的な利己主義を貫くSBGの姿勢と、SBGのかしこさが垣間見える戦略です。
WeWork問題浮上後のソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドに対する評価
インパクトのあるWeWork問題のあと、当然ですが世間からは不信感がつのりました。
この章では、
- SBGのかかえる問題の根深さ
- 孫正義氏の決算発表時の発言
- ソフトバンク・ビジョン・ファンド2について
上記を解説します。
SBGのかかえる問題の根深さ
SBGのかかえる問題は根深いです。
WeWork問題の原因からその根深さを考えていきましょう。
SBGにおけるWeWork問題の原因は、
- 「非上場企業の企業価値の算出があまりにずさんだった(つり上げすぎていた)」
- 「そんなずさんな企業価値をもとに次々に資金を投下してしまった」
の上記2点でした。
ここでこの問題の根深さに気づけた方はいますか?
もう少しヒントをお出しします。
SVFは合計88社に投資をしており、既に8社は上場しているということを以前ご紹介しました。
ということは、残りの80社(うち1社はWeWork)については今も非上場企業なのです。
そうなんです。
残っているWeWorkを除く79社も、WeWorkのようにずさんな企業価値の算出が行われている可能性があるということです。
SBGとSVFがWeWorkのほかに1社に対して1.1兆円も出資をしている企業はほかにはありませんが、もし出資先でWeWorkのようなケースがあるとしたら。。。
総出資額は8.8兆円ですので怖くて鳥肌が立ちますよね。
孫正義氏の決算発表時の発言
孫正義氏は2020年5月18日の決算発表で、
「SVFが投資をしている88社のうち15社はコロナ危機によって倒産するんじゃないかと思っている。また、60社程度は危機を乗り越えられたとしても大きな成長には結びつかない可能性があり、利益にはあまり貢献しない。しかし、ファンドの運営には問題がない。」
という発言をしています。
SVFのようなビジネスモデルは10社に1社でも成功すれば上出来というビジネスモデルなので孫正義氏の発言が現実的で控えめな見立てならいいのですが、WeWorkの際のようにイケイケドンドンな見立てならまったくあてになりません。
ソフトバンク・ビジョン・ファンド2について
2019年7月26日にSVFの2号ファンド(SVF2)設立を発表しています。
アップルやマイクロソフト、みずほ銀行などの出資により運用資産は約12兆円にものぼると公表されていました。
しかし、主にWeWork問題を契機に投資家はSBGやSVFに対して相当な不信感を抱くようになり、SVF2の資金調達は難航しました。
現在、SVF2はSBGの資金で運営しているとされています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
第6回では、
- WeWorkに対するSBGの救済策
- SBGのかしこさ
- WeWork問題浮上後の世間からのSBGとSVFに対する評価の変化
についてやさしく解説してきました。
WeWorkの状態のあまりの酷さにSBGの取締役社長COOのマルセロ・クラウレ氏を送り込む羽目にはなるもののかしこさは健在で、最悪な状況の中でも最善の策を講じようとする孫正義氏はすばらしいですね。
ただ、やはり世間は相当な不信感を抱くという結果になってしまいました。
現在もWeWorkはSBGによる支援を受けているので、今後の動向に注目です!
第7回では、本題のSBGの企業分析に話を戻します。
実は、第2回でご紹介したSBGが2020年5月18日に発表した2019年度の決算の大赤字にはカラクリがあったんです!
孫正義氏が決算説明会の登壇中に参加している記者たちに対してこのカラクリを正確に理解しているかを質問しましたが、1人しか手を上げられず知らなかった記者たちを軽く叱責するというシーンがありました。
それぐらいこのカラクリを正確に理解できている方は少ないということです。
第7回では、みなさんにこのカラクリを完璧に理解していただけるようにやさしく解説していきます。